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室内用電動車椅子 くるくるマウス
1.
はじめに
日本ではこれまで電動車椅子の使用により残存運動能力を衰えさせてしまう等の偏見があったため、諸外国に比べ普及が大変遅れてしまいました。しかし近年、偏った考え方は急速に訂正されつつあります。電動車椅子によって得られる移動能力を生かした生活は確実に定着し、広まる一方と言えるでしょう。
アローワンでは車椅子を下肢障害者の移動機能を代替する重要な移動具として位置づけるとともに、生活する為の道具として研究開発、実用化を進めています。
当社で製作する車椅子の殆どは3次元型(平面移動の他に座席上下動を有しています)で占められていますが、これは生活するための道具として車椅子を考えたとき人の動作で「立つ」(高くなる)「座る」(低くなる)ことが出来ないと非常に不自由な生活を強いられてしまう、という発想のもとに作られているからです。
2. 日本の家屋
日本の家屋は一般に狭く、敷居のような段差があり洋間や日本間など一つの住居に様々な生活様式が取り入れられ、洋間のみの諸外国と較べ屋内に電動車椅子を導入するには各種の問題点を解決しなければなりません。住宅の改造は理想的な手段でありますが、屋内のすべてを車椅子用に改築すれば健常者には使いにくく(台所・各種の棚等)費用も高額となり、また賃貸住宅に住む障害者には広範囲の改築が許されない現状です。当社は室内を車椅子に合わせるのではなく、より安い費用で理想の生活を送れるよう車椅子を室内に合わせようと考えました。
今まで室内用電動車椅子、くるくるマウスを開発する以前に室内外兼用の座席昇降型車椅子の開発設計実用化にもたずさわってきました。座席の高さを床上40ミリから700ミリまで無段階に調整できる車椅子で、使用者が乗ったまま床に降りたり本棚等高い所へ手が届くもので、介助者の労力削減や本人の行動範囲を広げることに役立ちます。
(電動・手動があります)
しかし畳に降りられたり、コタツに入ることが出来ても後輪駆動方式のため回転半径が大きく(800ミリ〜1150ミリ)家具つきの4畳半や6畳間で使うには高度の運転テクニックが必要
でした。
3.
屋内用電動車椅子の条件
屋内で従来型電動車椅子を使う為には広い空間(最低畳2枚位)を作らなければなりません。そこで、人間が座った姿勢のスペースで動ける電動車椅子を開発いたしました。
アローワン設立と同じ頃、兵庫県のリウマチの女性から狭い住居の中で家事一般をこなし、室内に調和する外観の電動車椅子はないものだろうかと相談されたことがきっかけとなり、くるくるマウスを完成させました。
(1)
従来の電動車椅子では動けなっかた狭い空間で使用できること。(例えば台所・事務所・作業所・図書館など。)
(2)
同じ投影面積であれば原理的に最小寸法で移動できることを目標とする。
(3)
室内の敷居40ミリ程度は自力で乗り越える。同様に40〜50ミリの溝に落ちないこと。
(4)
傾斜角6度未満の傾斜路(段差につけたスロープ等)を走行できること。40ミリの段差であれば傾斜角45度位の補助スロープで楽に乗り越えられること。
(5)
バッテリーは室内での硫酸による事故防止のためシール型とする。(シール型バッテリーは倒しても液漏れせず、液補充の必要がない)
(6)
シール型バッテリーを使用するため、完全自動充電器とする。
(7)
キャスター・タイヤは床を汚さないようにカーボンの少ないグレー色のゴムタイヤを採用する。
(8)
自動走行、手押し介助走行が出来るようにモーターアッシーにクラッチを付ける。
(9)
使用者の昇降を容易にするため肘掛けは取外し式、又はそれと同等以上の性能を持たせること。
(10)簡単な操作で、走行・旋回・段差乗越し・座席昇降が出来ること。
(11)床に落ちたものを拾うためには、座席の最低地上高は400ミリ以下でなければならない。体重でクッションがへこんだ状態で350ミリまで確保。
(12)機械らしい無骨な概観にカバーを取付け(くるくるマウス)室内調度品に雰囲気を合わせ、家具・人間等にぶつかったときのダメージを緩和させること。
(13)研究開発費、生産コストが安いこと。
(14)遠い将来ではなく現在、障害者の役に立つ製品を開発すること。
4.電動車椅子JIS規格について
現在のJIS規格は屋内外兼用で作られていますが、小回り性能重視の屋内専用電動車椅子ではホイールベースを短くしなければならないため、現行の規格で設計することに無理があります。JISに適合できない車椅子イコール欠陥車椅子、というイメージを考えると屋内型電動車椅子にふさわしいJIS規格づくりが必要かと思われます。
5.室内用電動車椅子の製作
電動車椅子の最小寸法は運転者が車椅子に乗車した姿勢で上方から投影した形状になります。従って、その投影した形状に外接する円を描いたものが最小回転半径の円となります。この外接円の中心を通る左右に、駆動輪を位置させると(図1、A)の非常に小さな電動車椅子になります。
参考に(図1、B)のような後輪駆動・電動車椅子での最小回転半径を描くと、(図1、A)の倍近い半径となります。
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(A)くるくるマウス
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(B)一般の車椅子 |
図1 くるくるマウスと一般の車椅子との比較 |
(図1、A)のように駆動輪を位置させたものが、くるくるマウスの基本構造となります。駆動輪がボディ前後の中心にあるので安定させる為、前後にキャスターを2個づつ取り付けました。キャスターは外接円から外に極力はみ出さないよう、実用性も考慮しΦ75ミリにします。これで原理的には最小回転半径をもつ電動車椅子になりました。
しかし、6輪を同一平面のフレームに取り付けると前後どちらかのキャスターが段差に乗りあげた場合、駆動輪が接地できず走行不能になってしまいます。そこで6輪中、駆動輪だけは常に接地するように車輪を構成しなおします。日本家屋は前述の様に30〜40ミリの段差(敷居等)が多く、最近ではホームエレベーターも普及しつつありその為40〜50ミリ幅の溝を走行する必要が出来てきました。
以上の段差や溝を乗り越すためには、一般に直径200ミリ幅60ミリ位のタイヤを使用します。小径キャスターで段差、溝を走行する為には全輪が独立したサスペンションを持てば良さそうです。けれど溝越えの場合、1輪が溝に落ちると脱出できなくなります。そこで当社では左右のキャスターを連動させました。この方式によれば1輪が脱輪しようとしても残る1輪がそれを防御するので、安全に溝越えできます。(図2).
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図2 くるくるマウス溝越え(フロントキャスター) |
前キャスター左右、駆動輪左右、後キャスター左右を各々連動させ、後キャスターが左右とも脱輪しても脱出、走行できるようになっています。
段差乗り越えは、キャタピラー式・チェーン使用のよじ登り式等いくつかの案が出ましたが、屋内用であるため敷物、床面を傷めにくい前輪キャスターと駆動ユニットをフレームに固定し、フロントユニットに後輪キャスターフレームを回転可能な形で取り付けることにより、バランス良く接地できるようにしました。
駆動輪が前進すると、その推力で自動的にテコの応用で前輪を持ち上げる力が働き、ゆっくり前輪を持ち上げショック無く段差を乗り越えます。
直径75ミリの車輪で40ミリの段差乗越をする時、車輪の中心より段の方が高いので垂直の壁をあがることになり、当然後押ししただけでは乗り越えられません。通常、車輪は直径の
1/4程度しか段差乗越えをしないので、後輪場合地面から浮いた状態の補助輪を構成し、見かけ上の段差をタイヤ直径の1/4として後キャスターの段差乗越えを可能にしました。
くるくるマウスの座席昇降機能は、座席昇降40〜600ミリの電動車椅子の機構を改良し、床上350〜700ミリの無段階調整、走行・旋回・段差・溝乗り越えが座面高に関係なく行えるようにしました。
6.屋内用電動車椅子の現状と今後の展開
これまで電動車椅子は万能を目指し、一台で屋内、屋外両方に使えるものが良いとされてきました。しかし一見便利なこの車椅子は、使用者にとって万能ではありませんでした。屋外をとれば家屋の狭さを改善せねばならず、屋内を重視すれば外の悪路に対応できない、といった具合です。結局、屋内外両方に不満を持ちながら使うか、使用者がより必要とする内外どちらかのみ利用するというのが現状です。一つのことしか出来ない、と言うことは一つのことは出来る、と言うことです。万能型車椅子から特異な長所を持つ車椅子へと分化して行けば、今まで不可能だった事を克服する手段が発見できると思います。
当社のくるくるマウスは屋外での走行性を捨て、屋内専用設計としたため現時点では理想とされる最少旋回性能を持たせることができました。くるくるマウスでは最少回転半径420ミリを実現いたしました。
肘掛は撥ね上げ式でコントローラー側にはガス式アブソーバーも付き、わずかの力で撥ね上げられます。テーブルに身体を密着させ安定した状態で食事をしたり、各種作業台・洗面台等の利用がより便利になりました。
他に安定した直進走行性を確保するため操作制御部を加工したり、ベット・洋式トイレ等への移乗を楽に行えるよう無段階調整の座席昇降と座面高に左右されない走行を実現させています。
最終目標としてはくるくるマウスの現行機能はそのままで床まで降りる機種を開発したいと考えています。
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